大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和24年(行)22号 判決

原告 田村広一郎

右代理人弁護士 木戸喜代一

被告 千葉県知事 柴田等

右代理人弁護士 日下一郎

主文

千葉県農地委員会が別紙目録記載の農地について昭和二四年三月二二日為した訴願却下の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

別紙目録記載の土地は原告先代田村喜久蔵(昭和二六年一〇月九日死亡)の所有であつたことは被告の明らかに争わないところである。

右土地につき天津町農地委員会は昭和二三年六月八日自作農創設特別措置法第三条第一項第二号により買収計画を定めたこと、これに対し田村喜久蔵は異議の申立をしたが却下せられ、更に千葉県農地委員会に訴願したが、これも昭和二四年三月二二日棄却せられ、同月三〇日右裁決書謄本の送付を受けたことは当事者間に争がない。

右買収計画樹立当時本件農地は別紙目録記載のとおり、それぞれ訴外富川徳蔵外五名が田村喜久蔵より賃借して耕作していたことは当事者間に争なく、その賃貸借の始期は別紙貸付状況一覧表中の本件農地関係部分記載のとおり、昭和八年頃より昭和一七年頃までの間であることについては被告が明らかに争わない。

成立に争のない甲第一号証、甲第七号証の二、及び証人松尾英雄、同高橋新太郎の各証言によれば、田村喜久蔵は病気になつたため、止むを得ず本件農地を訴外富川徳蔵等に賃貸するに至つたものであること、田村喜久蔵の長男である原告は大正一五年八月二五日生で、昭和二四年六月一日たひと結婚し婚姻届出を了したことなどが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。そうすれば、当初小作人等に対し病気の回復するまでというように賃貸借の期限を明示したかどうかを問うまでもなく、本件土地の賃貸借は一時的賃貸借であると認めるのが相当である。被告は「本件の如く小作に出して既に一〇年前後を経過したものを今日一時賃貸地であるとはいえない。」というが、貸付当初の事情が一時貸付である限り、仮に賃貸借期限が実際に多少長期化したとしても、なお一時的賃借であるから、右主張は理由がない。このように一時貸付地であるのであるから、この土地を原告が自作するのが相当である。

以上の認定によれば、本件土地は自作農創設特別措置法第五条第六号に該当する農地であつて買収すべきものではないから、爾余の争点につき判断するまでもなく、本件買収計画は違法である。従つて、右買収計画を維持して原告の訴願を棄却した千葉県農地委員会の昭和二四年三月二二日付裁決は違法であつて、取消すべきものである。

よつて右裁決の取消を求むる原告の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高根義三郎 裁判官 山崎宏八 浜田正義)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例